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ステロイド注射とは、副腎皮質ホルモン(ステロイド)を患部に直接注入する治療法です。皮膚科・形成外科領域では主に「ケナコルト-A(一般名:トリアムシノロンアセトニド)」という長時間作用型のステロイド製剤が使用されます。ケナコルトは結晶性の懸濁液で、注射した部位に長くとどまり、数週間から数ヶ月にわたって持続的な抗炎症効果を発揮します。
ステロイドは本来、人間の副腎という臓器で作られるホルモンで、体内の炎症反応やアレルギー反応を抑える働きがあります。ケナコルトはこの作用を人工的に強化した合成ステロイドで、天然のステロイドホルモンと比較して約5倍の抗炎症作用を持ちます。
ステロイド注射が皮膚疾患に効果を発揮する理由は、以下の3つの作用によります。
1. 抗炎症作用
炎症を引き起こす物質(炎症性サイトカイン:IL-1、IL-6、TNF-αなど)の産生を抑制します。ケロイドや肥厚性瘢痕では、傷が治る過程で炎症が持続し、組織が過剰に増殖しています。ステロイドがこの炎症を鎮めることで、赤み・かゆみ・痛みが軽減し、盛り上がりの進行を止めます。
2. 線維芽細胞の増殖抑制
線維芽細胞とは、コラーゲンなどの結合組織を作り出す細胞です。ケロイドや肥厚性瘢痕では、この線維芽細胞が過剰に活性化し、コラーゲンを作りすぎることで皮膚が盛り上がります。ステロイドは線維芽細胞のDNA合成を抑制し、コラーゲンの過剰産生を防ぎます。
3. 血管収縮作用
ステロイドは毛細血管を収縮させる作用があり、これにより患部への血流が減少します。炎症部位への血流減少は、炎症細胞の浸潤を抑え、組織の腫れを軽減します。ケロイドの赤みが薄くなるのは、この血管収縮作用によるものです。
皮膚科・形成外科・美容皮膚科でステロイド注射が行われる主な疾患は以下の通りです。
ケロイド
傷跡が元の傷の範囲を超えて周囲に広がり、赤く盛り上がる疾患で。ステロイド注射は保険適用で、第一選択の治療法として広く行われています。通常3〜4週間に1回の頻度で複数回の注射が必要です。
肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)
傷跡が元の傷の範囲内で赤く盛り上がる状態です。時間の経過とともに自然に平坦化することもありますが、ステロイド注射により、治療期間を短縮し、かゆみや痛みを早期に軽減できます。
嚢腫性ニキビ(しこりニキビ)
皮膚の深い層に炎症が及んだ重症ニキビです。日本の痤瘡治療ガイドラインでは、嚢腫内へのステロイド局所注射が「グレードB(行うことを推奨)」として位置づけられています。
円形脱毛症
自己免疫反応により毛根が攻撃され、円形に脱毛する疾患です。ステロイドの免疫抑制作用により、発毛を促します。
実際の治療は以下の流れで行われます。
診察・適応の判断
医師が患部を診察し、ステロイド注射が適切かどうかを判断します。感染症がある場合や、糖尿病のコントロールが不良な場合は、注射が適さないことがあります。
注射の準備
ケナコルト-A(40mg/mL)を、多くの場合キシロカイン(局所麻酔薬)で希釈して使用します。濃度は部位や症状により調整されますが、一般的に10mg/mL以下の濃度に希釈して注射されることが多いです。希釈することで注入時の痛みを軽減し、広い範囲に均一に薬剤を行き渡らせることができます。
注射の実施
細い針を使用し、患部に直接注射します。ケロイドや肥厚性瘢痕の場合は、病変の中に薬剤を注入します。注射時間は5〜10分程度で、外来で行えます。
治療間隔と回数
原則として2〜4週間以上の間隔をあけて注射を繰り返します。ケロイドは数ヶ月〜1年以上の継続治療が必要なこともあります。効果を見ながら注射間隔や回数を調整します。
ステロイド注射には、外用薬や内服薬にはない利点があります。
ケロイドや肥厚性瘢痕に対するステロイド注射は健康保険が適用されます。長期治療が必要なケロイドでも、経済的な負担が比較的軽いのが大きなメリットです。
注射は病変の中に直接薬剤を注入するため、高濃度のステロイドを患部に確実に届けることができます。特に組織が硬く、外用薬が浸透しにくいケロイドに効果的です。
局所注射では薬剤が患部にとどまり、全身への吸収量が少ないため、全身性副作用(糖尿病、高血圧、骨粗鬆症など)はほとんど起こりません。局所的な副作用のみに注意すれば良いのが利点です。
嚢腫性ニキビに対するステロイド注射は、内服薬や外用薬よりも比較的早く効果が現れ、一般的に24〜72時間で腫れが引き始め、約1週間で落ち着くことが期待できます。
ステロイド注射には局所的な副作用があり、適切な量・間隔で注射しないとトラブルが起こることがあります。
注射量が多すぎたり、正常な皮膚に薬剤が漏れたりすると、皮膚が薄くなり(萎縮)、くぼんでしまう(陥凹)ことがあります。特に顔面や皮膚の薄い部位では注意が必要です。この副作用は、適切な濃度・量の調整により回避することが重要です。陥凹が生じた場合、軽度であれば数ヶ月〜1年程度で自然回復することもありますが、重度の場合は回復が難しいことがあります。
ステロイドの血管収縮作用が繰り返されると、逆に毛細血管が拡張し、皮膚表面に赤い血管が網目状に浮き出ることがあります。
ステロイドにはメラノサイト(色素細胞)の活動を抑制する作用があり、注射部位の皮膚が周囲より白くなることがあります。多くの場合、注射を中止して数ヶ月〜1年程度で徐々に回復しますが、完全には戻らないこともあります。
ステロイドには免疫抑制作用があるため、注射部位で細菌感染が起こりやすくなります。清潔な環境で注射を行い、注射後に患部を清潔に保つことが重要です。発赤、腫れ、膿、発熱などの感染徴候が現れた場合は、すぐに医療機関を受診してください。
ケロイドや肥厚性瘢痕は組織が硬く、注射液を注入する際に強い痛みを伴うことがあります。対策として、キシロカイン(局所麻酔薬)で希釈する、麻酔テープ(ペンレス®など)を事前に貼付する、極細針を使用するなどの工夫が行われています。
ステロイド注射で痛みを感じる原因は主に2つあります。1つ目は針を刺す痛みで、これは通常の注射と同程度です。2つ目は薬剤を注入する際の痛みで、特にケロイドや肥厚性瘢痕のように組織が硬い場合、薬剤を押し込む際に強い圧迫感と痛みを感じます。ケロイドが軟化してくると、注入時の痛みは軽減されます。
局所麻酔薬との混合、麻酔テープ・クリームの事前塗布、極細針の使用などにより、痛みの軽減が図られます。
局所麻酔薬との混合
ケナコルトをキシロカイン(リドカイン)などの局所麻酔薬で希釈して注射します。注入と同時に麻酔効果が得られるため、注入時の痛みが軽減されます。最も一般的に行われている方法です。
麻酔テープ・クリームの事前塗布
リドカインを含む麻酔テープ(ペンレス®)や麻酔クリーム(エムラクリーム®)を注射の30〜60分前に患部に貼付・塗布します。針を刺す際の痛みを軽減できますが、組織内への注入時の痛みには効果が限定的です。
極細針の使用
30ゲージ(外径0.3mm)などの極細針を使用することで、針を刺す際の痛みを最小限に抑えます。ただし、細い針は硬い組織への注入が難しくなるため、病変の硬さに応じて針のサイズを選択します。
注射後は一時的に注射部位が痛むことがありますが、通常は数時間〜1日程度で落ち着きます。腫れや熱感が生じることもありますが、これも一過性です。激しい痛みや腫れが数日続く場合は、感染の可能性があるため医療機関に連絡してください。
ステロイド注射は外来で行える治療で、日常生活への支障はほとんどありません。ただし、注射後の経過には以下のような段階があります。
注射直後
注射部位に軽い発赤、腫れ、圧痛が生じることがあります。キシロカインを混合した場合は、注射部位周囲に一時的なしびれを感じることがあります。これらは通常30分〜数時間で落ち着きます。注射後すぐに帰宅でき、メイクも可能です。
注射後数時間〜1日
注射部位の軽い痛みや違和感が続くことがあります。入浴は当日から可能ですが、患部を強くこすらないようにしてください。激しい運動や飲酒は当日は控えることが推奨されます。
注射後1週間
効果が現れ始める時期です。ケロイドや肥厚性瘢痕の場合、赤みが薄くなり、かゆみや痛みが軽減し、組織が柔らかくなってきます。嚢腫性ニキビの場合は、この時点で腫れがかなり落ち着いていることが多いです。
注射後2〜4週間
効果がさらに進み、病変の平坦化が進みます。この時期に次回の注射を行うかどうか、医師が判断します。効果が十分であれば注射間隔を延ばし、効果不十分であれば再度注射を行います。
長期経過
ケロイドの場合、数ヶ月〜1年以上の継続治療が必要なことがあります。治療のゴールは「完全に傷跡をなくすこと」ではなく、「赤みや盛り上がりを軽減し、かゆみや痛みを抑えること」を目標とすることが一般的です。症状が落ち着いた後も再発予防のため、維持療法として定期的な注射を継続することがあります。
ステロイド注射は多くの疾患で保険適用となるため、比較的低コストで治療を受けられます。
ケロイド・肥厚性瘢痕・円形脱毛症などに対するステロイド注射は健康保険が適用されます。費用の目安は以下の通りです。
注射1回あたりの費用(3割負担)
500円〜2,000円程度。薬剤費(ケナコルト-A 40mg:約785円の薬価)+注射手技料で構成されます。
初診料・再診料(3割負担)
初診料:約850円、再診料:約220円。これに加えて注射の費用がかかります。
1回の治療トータル費用
初診時:1,500〜3,000円程度、再診時:1,000〜2,500円程度が目安です。
美容目的(ニキビの即効治療など)や、保険適用外の疾患に対するステロイド注射は自由診療となります。
ニキビ注射(1箇所)
3,000円〜10,000円程度。クリニックにより価格差があります。
ケロイド注射(自費の場合)
5,000円〜15,000円程度。保険診療で行えるクリニックを選ぶことで費用を抑えられます。
ケロイドの治療は半年〜1年以上の継続が必要なことがあります。月1回の注射を1年間続けた場合、保険診療では総額1万円〜3万円程度(3割負担)で収まることが多く、外用薬や内服薬を併用しても経済的な負担は比較的軽いです。
ステロイドを使った治療には、注射以外にも外用薬(塗り薬)、貼付薬(テープ)、内服薬があります。それぞれの特徴を比較します。
効果の強さ
注射は患部に直接高濃度のステロイドを届けるため、効果が強力です。外用薬は皮膚表面から浸透させるため、深い病変や硬いケロイドには効果が限定的です。ケロイドの盛り上がりを平坦化するには、外用薬だけでは難しく、注射が必要なことが多いです。
使いやすさ
外用薬は自宅で毎日塗布でき、痛みもありません。注射は医療機関で行う必要があり、痛みを伴います。軽度の肥厚性瘢痕であれば、まず外用薬(ドレニゾンテープ®、エクラープラスター®など)で様子を見ることもあります。
選び方
軽度の肥厚性瘢痕には外用薬、中等度以上のケロイドや外用薬で効果不十分な場合は注射を選択します。
全身への影響
内服薬は全身に作用するため、糖尿病、高血圧、骨粗鬆症、免疫低下などの全身性副作用リスクがあります。局所注射は患部のみに作用するため、全身性副作用はほとんどありません。
適応
ケロイドや肥厚性瘢痕の治療では、ステロイドの内服は通常行いません。円形脱毛症の広範囲型では内服が選択されることがありますが、局所型であれば注射が第一選択です。
作用機序の違い
ステロイドは抗炎症作用と線維芽細胞抑制で効果を発揮します。ボトックス(ボツリヌス毒素)は筋肉を弛緩させ、傷にかかる張力を軽減することで瘢痕の進行を抑えます。作用機序が異なるため、併用されることもあります。
副作用の違い
ステロイド注射は皮膚萎縮・陥凹・毛細血管拡張のリスクがあります。ボトックス注射は、皮膚萎縮などのステロイド特有の副作用がないため、顔面のケロイド・肥厚性瘢痕への新たな治療選択肢の一つとして検討されています。
保険適用
ステロイド注射はケロイドに対して保険適用ですが、ボトックス注射は自由診療となります。ボトックス注射は1回あたり1万円〜3万円程度と高額ですが、副作用リスクを重視する場合や、ステロイドで効果不十分な場合に選択肢となります。
ステロイド注射は適切に行えば安全で効果的な治療ですが、不適切な使用によりトラブルが起こることがあります。
最も多い失敗例は、注射量が多すぎたり、病変以外の正常な皮膚に薬剤が漏れたりして、皮膚萎縮・陥凹が生じるケースです。特に顔面のニキビ注射では、少量の薬剤でも陥凹が生じやすいため、経験豊富な医師による正確な注入が求められます。対策として、1回の注射量を控えめにし、効果を見ながら回数で調整することが重要です。
ケロイドは体質的な要因が強く、ステロイド注射だけでは効果が不十分なことがあります。効果がないのに漫然と注射を繰り返すと、副作用だけが蓄積するリスクがあります。効果不十分な場合は、手術+術後放射線照射、レーザー治療、ボトックス注射など、他の治療法への切り替えを検討すべきです。
不衛生な環境での注射や、注射後の患部の管理が不適切だと、細菌感染を起こすことがあります。特に糖尿病の方や免疫力が低下している方は感染リスクが高いため、注意が必要です。注射後に発赤・腫れ・膿・発熱などが生じた場合は、すぐに医療機関を受診してください。
ケロイドはステロイド注射で一時的に平坦化しても、注射を中止すると再び盛り上がることがあります。これは失敗というより、ケロイドの性質によるものです。ケロイドの治療は「完治」ではなく「寛解の維持」を目標とし、症状が落ち着いた後も維持療法として定期的な注射を続けることが推奨されます。
ステロイド注射は比較的シンプルな治療ですが、副作用を避けて効果を最大化するには、経験と技術が必要です。
ステロイド注射はケロイド・肥厚性瘢痕の病態を正しく理解し、適切な濃度・量・間隔を判断できる医師が行うべきです。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、または日本形成外科学会認定形成外科専門医の資格を持つ医師がいるクリニックを選んでください。
ケロイドや肥厚性瘢痕に対するステロイド注射は保険適用です。自由診療のみを行う美容クリニックでは、本来保険で受けられる治療も自費になってしまうことがあります。「保険診療」に対応しているか、事前に確認してください。
ケロイドの治療はステロイド注射だけでなく、内服薬(トラニラスト)、貼付薬(エクラープラスター®)、手術、レーザー、放射線照射など、複数の選択肢があります。患者さんの状態に応じて、これらの治療を組み合わせて提案してくれるクリニックが望ましいです。「ステロイド注射しかできない」クリニックでは、効果不十分な場合に対応が難しくなります。
皮膚萎縮、陥凹、毛細血管拡張、色素脱失などの副作用リスクを、治療開始前にきちんと説明してくれるクリニックを選んでください。「副作用はない」と断言するクリニックは信頼できません。副作用が起こった場合の対処法についても確認しておくと安心です。
Q.ステロイド注射は何回くらい受ける必要がありますか?
A.疾患や症状の程度により異なります。肥厚性瘢痕の場合は1〜2回の注射で症状が改善することが多いです。ケロイドの場合は、3〜4週間に1回の頻度で数ヶ月〜1年以上の継続治療が必要なことがあります。症状が落ち着いた後も、再発予防のために数ヶ月に1回のペースで維持療法を続けることがあります。嚢腫性ニキビの場合は、通常1回の注射で効果が得られますが、炎症が強い場合は2〜3回必要なこともあります。
Q.ステロイド注射の効果はどれくらいで現れますか?
A.嚢腫性ニキビに対しては即効性があり、24〜72時間で腫れが引き始め、約1週間で落ち着くことが多いです。ケロイド・肥厚性瘢痕の場合は、注射後数日〜数週間で徐々に効果が現れます。かゆみや痛みは比較的早く(数日〜1週間程度)軽減しますが、赤みや盛り上がりの改善には数週間〜数ヶ月かかることがあります。効果の現れ方には病変の大きさや硬さ、体質により差があります。
Q.ステロイド注射の副作用で皮膚が凹んでしまったら治りますか?
A.軽度の陥凹であれば、数ヶ月〜1年程度で自然に回復することがあります。ただし、重度の陥凹や長期間放置した場合は、完全には回復しないこともあります。陥凹が生じた場合は、すぐに注射を中止し、経過を観察します。自然回復が見込めない場合は、ヒアルロン酸注入などの充填治療が検討されることがありますが、ケロイド体質の方では注入部位がケロイド化するリスクもあるため、慎重な判断が必要です。副作用を避けるためには、経験豊富な医師による適切な量・濃度での注射が重要です。
美容医療相談室に届いたステロイド注射(ケナコルト)の美容医療&美容整形の口コミ・体験談です。
※当相談室でご紹介しているクリニックの口コミではございません。クリニック・医師によりスキルは異なりますので、慎重にお選びください。
美容医療相談室では、みなさまからお寄せいただいた体験談やご意見を元に、治療法に関する情報提供や名医の紹介を行っています。 「治療を受けたことがある」「カウンセリングに行ってみた」「友人が治療を受けた」など、ぜひ口コミ・体験談情報をお寄せください!
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